メモリー・ウォッチャー



2023.03.10
雨宮睦美


昨日のランチ会で主宰の方がおっしゃっていた「インスタグラマーに明るい人はいない」という言葉が印象に残りました。かなり多くのインスタグラマーさんたちを紹介されて会ったけれど、皆さん全然キラキラしてないと。それで私が思い出したのが、読みかけになっているミステリー小説。The Memory Watcherです。

美女でセンスもよいカリスマインフルエンサーの女性、ダフネが主人公。素敵なおうちの裕福な暮らし、カッコいい旦那様に天使のような子どもたち。何万人というフォロワーがいて、熱狂的なファンも少なくありません。だけど彼女は自分の本当の姿と、どんどん乖離していく夢のような虚像とのギャップに疲れ果てています。現実は全然キラキラなんかしていない。夫には愛人がいるし、長女は反抗期でとんでもないことばかりしでかすし、つらい思いをごまかすために、ひそかにスラムのような場所に出向いては、麻薬を供給してもらう日々。

そんな彼女をじっと見ているもうひとりの女性がいます。彼女の名はオータム。10年近くにわたって、誰にも気づかれずにずーっと、ダフネとその家族を観察し続けています。

オータムはボーイフレンドのベンと同棲しています。どうやって彼と知り合ったかと言えば、彼がダフネ一家のすぐ裏に住んでいたことが決め手です。それとなく彼の行動範囲に出没し、SNSにアクセスして好みやライフスタイルを調べ、徹底的に「彼のタイプ」になるため、髪を染め、ファッションもすべて変え、口調や笑い方なども研究し尽くして、いつしかベンに、オータムこそが運命の相手だと信じ込ませてしまう。あっけないほどコロッと、彼は騙されます。なんて好みのタイプなんだ!僕の理想がそのままリアルな女の子として出てくるなんて!オータム、僕と一緒に住まないか?

ハイハイ待ってました。そのためにこうしてあんたに近づいたんだから当然でしょ、とばかりにほくそ笑むオータム。「偶然を装い帰り道で待つわ」「もうすぐー私、きーっと、あなたを振り向かせるー」なんて歌ってた『まちぶせ』が無邪気でかわいいと思えるくらい、デジタルの世の中って怖いですね。そして彼女にとってベンは単なるコマなのです。都合よく彼女が本来の目的を果たすためのツール。だからラブラブな演技をしつつも、内心は彼を心底軽蔑して馬鹿にしながら暮らしているのです。

これだけで十分怖いのですが、どうやらダフネの問題児長女の生みの親が、オータムなのです。10代で望まぬ妊娠をして手放してしまった我が子のために、オータムが異常なスト―キング行動を続けていたのでした。

ついにダフネが新しいナニーを雇うことになって、オータムにとってはまたとないチャンス到来!さあ、彼女は家に入り込むことはできるのか!

インスタグラマーのキラキラライフに、こんな秘密が隠れているとしたら恐ろしいです。。。

https://www.facebook.com/mutsumi.amemiya


雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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