Mystic River
雨宮睦美
デニス・ルへインは大好きな作家のひとりです。ハードボイルドでとても切ない。これも泣けます。ライトノベルやケータイ小説のような女子が号泣する世界ではなくて、おっさんが歯をくいしばって耐えるけど涙が抑えきれない、っていう感じ。なんでそっちに感情移入するのかわからないぞ自分。
さて原作も素晴らしいのですが、クリント・イーストウッドが監督した映画もとてもよいです。原作の世界を大切にしながら、登場人物たちがリアルに息づいていて、普段「映像は見ない」と決めている私も、つい2回くらい見た異例の作品。メインの役者3人も見事です。
舞台はボストン近郊の小さな町。かつてこの地でともに育った幼なじみの少年たちは、20数年後の今は疎遠になって、それぞれの道を歩んでいます。前科者だったけど更生して雑貨店を営むジミー(ショーン・ペン)、刑事になったショーン(ケビン・ベーコン)、そして幼い子供を持ち、つましく生きるデイヴ(ティム・ロビンス)。ある日、ジミーの愛娘ケイティが何者かに殺されたことによって、バラバラになっていた3人が顔を合わせることになります。娘を失った被害者と、事件を捜査する刑事と、そして殺人の容疑者として。
仲の良かった少年たちの絆が切れた原因は、小学生の頃にデイヴが経験した誘拐事件にありました。警官になりすました変質者に連れ去られ、監禁されてしまったデイヴ。数日後に戻ってくるのですが、彼の身に何かが起きたことは、誰も口にはしないだけで明白でした。
ケイティの死の真相をめぐって、隠されていた真実がいろいろと明らかになっていき、悲劇は連鎖してやがて・・・
ネタバレになるのでここまでにしましょう。連休に時間がある方は、ご一読を。あるいはご視聴を。
それにしても、同じ地で生まれ育って、そこで結婚して家庭を築き子供を育て、親たちもそのまた親たちも皆知り合いで、ずーっと外の世界を知らないまま生きていく、っていう設定が、アメリカの小説にはよく出てきます。その閉塞感たるやどんなものだろう、と想像するだけで怖いんですけど、そういえばアメリカ人は海外にあまり出ない人がほとんどなんですよね。パスポート所有率は30%だそうです。少ない!と思って調べたら日本はもっと少なかった。どんどん減り続けて、2022年の年末時点で17%だって。まあコロナもあったからね。私も失効しているような気がします。
それで思い出すのは10年以上前にインタビューしたある若者(日本の青年)です。彼は豊島区で生まれ、豊島区で育ち、奥さんも豊島区出身で、ご両親も豊島区の方で、今は中学時代の友達のお父さん(当然豊島区民)のもとで働いています。大工さんだったかな。「時には、他の町に出たい!とか、遠くに行きたい!とか思うことはないですか」と聞いたら、不思議そうな顔をして、「ええ、なんでですか。豊島区最高っすよ!」という答えが返ってきたのでした。こういうポジティブな人ばかりだったら、悲劇は生まれないから大丈夫か。