メイク魂に火をつけろ。
雨宮睦美
先日メイクについて書いたことがきっかけで、SNSでコメントをいただいて、ちょっとしたCM談義になりました。伝説のクリエイター杉山登志さんの名前が出たり、かつての化粧品CMの動画をあれこれ見たりして、ああ、広告は文化だったし、アートでもあったんだよなあ、としみじみ思いました。
そして思い出したのが1997年の資生堂【ピエヌ】のデビューです。CMソングはB’zの「Fireball」で、モデルが緒川たまきさんとケリー・チャン、ミシェル・リー。皆怖い顔で決めてるし音楽はグランジっぽいし、キャッチコピーが「メイク魂に火をつけろ。」ですよ。資生堂にもB’zにも特に興味はなかった私ですが、これはなんかザワザワするというか、突然殴られた感じというか、新しい時代が切り開かれていくような期待がありました。
広告だけでなく、実際の商品ラインナップでも黒い口紅やマニキュアがあったりして、国内最大手の会社が、基幹ブランドでこんな大胆なことやっちゃうのがすごいなと思ったものです。
改めて「Fireball」の歌詞を見てみたら、なんだこれは、よくOK出たな、って思うような内容で驚きました(ちょっと書けないので気になる方は検索してみてください)が、サビで「魂に火をつけろ」って歌わせることによって解決したんですかね。これ、資生堂の思惑とアーティストの主張の間に入って調整した人はものすごく大変だったんじゃないかな。
その後少しの間この突き抜けたカッコいい路線(モデルはカメラに向かって笑わない)を続けたピエヌは、でもどんどん保守的に無難に変わっていきます。これは想像だけど、全国の資生堂のお店を支えてきたお客さんたちには、多分すごく不評だったのでしょう。もっと普通のカラーはないの?普段のメイクに使えるものはないの?若い子用のブランドだとしても、おばさん、おばあさんだって買うんだし。それがナンバーワン企業の役割でしょう?って。
ブランドの後半は伊東美咲さんをモデルに、スタイリッシュではあるけど親しみある世界観、王道のコンサバメイクっていう風にシフトしていって、2005年で【ピエヌ】は終了。【マキアージュ】になりました。エビちゃん(蛯原友里)の時代が始まるのです。