友だちからの苦言



2023.06.12
雨宮睦美


学校、職場、ご近所、趣味の場、SNS・・・本当にいろいろなところで、いろいろな人と出会い、仲良くなって、楽しい時間を共有する。友だちっていいなあとしみじみ思います。年齢を重ねることで、世代の離れた人たちとも親しくできるのもいいですよね。

今ちょうど仕事で小中学生の「友だち事情」を調査してその結果をまとめているところなのですが、ごく限られた人とお互いのすべてをさらけ出して受け容れあいたい、と思う子もいれば、友だちはたくさんいた方が楽しく遊べるからいい、と能天気な子もいるし、適度な距離感を保ってつきあって、相手に嫌な思いをさせたくない、と気遣う子もいます。私自身はどうなんだろう。あんまり感情的にぶつかり合ったり、互いの領域に踏み込むことはしないで、その場を快適に過ごせるようにしたいと思っているのかな。

でも、敢えて「これはよくないよ、どうなの?」って指摘してもらうのも、実はうれしいものなんだな、ということを、先日私は実感しました。

20年来のつきあいになる音楽仲間の友だちと、久しぶりに2人で飲んだ時のことです。お互いの近況、音楽やオケのこと、お年頃の体調変化、親きょうだいとの関係、この先の仕事。話題はとりとめなく、いくらでも湧いてきて、でもふたりともサバサバ系なので、おばちゃん同士のおしゃべりというよりは、オッサン2人の会話みたいだったかと思います。まあそれは関係ないけどね。

彼女は先月末の演奏会終了を機に、体のケアをちゃんとするために2か月間楽器(チェロ)をお休みする、と決断しました。別に病気を抱えているとかどこか悪くしたということではないけど、小さな不調がいろいろ出てきていて、でも忙しさを理由につい後回しにしてしまっていたのを、思い切って変えようと思う、と話してくれました。

かたや私は、脚の調子がずっと変だったけど、筋トレや整体やいろんなことを試して、だいぶん歩けるようになってきた、ということを報告。去年の夏が最悪な状態で、レッスンやオケのリハーサルに通う駅徒歩10分の道が果てしなく遠く感じられたことや、楽器を背負って思うように体が動かせず、炎天下で何度も立ち尽くしたり、いっそ四つ這いで進もうと考えたことなどを語りました。

すでに彼女は知っていたことでもあるのですが、「今だから笑い話だけどね、ほんとにあんなんでよくやったと思うわ」と言ったら、「確かによくやったけどさ、でも、そんな状態だったら普通練習を休むよ。」「あ、そうか。休めばよかったのか。それは考えつかなかった。」「まあ鈍感なのはいいことだけど、ちょっとおかしいよ。なんのためにそこまでするの?」ほんとだ。彼女の言う通りだと思いました!仕事でもないのに、なんで私は限界に挑戦しようとしていたんだろう。そうやって頑張っている自分に、酔ってたところがあったのかも。もっと言うと、無意識に、周りの人たちに向かって、頑張っている私をアピールしたかったのかもしれない。周りからは、ちょっとめんどくさいなあと感じられていたかもしれません。まあ、どう思われていたかはそれほど重要ではありませんが、そこまでガムシャラにならなくても、つらい時は休む、という選択を取るのは自分のためでもあるわけですよね。言ってくれてよかった。ありがとう。

さてこの日、彼女からはもう一つ怒られたことがあって、それはオーケストラの譜面製本のことでした。私は15年前に彼女と一緒に見学に行ったアマチュアオケに一緒に入って、お互いに初めてのオーケストラで、皆についていくのが大変だあ、という日々を共に過ごしました。演奏はもちろんだけど、曲の名前や飛び交う用語もよく知らないし、運営のことや人間関係など、もういっぱいいっぱいで、余裕ゼロだった。それが時間とともにいろんなことに慣れていって、すっかりベテラン風情になってきた今日この頃。

「でも私、いまだに譜面がちゃんと製本できないんだよ」と打ち明けると、彼女は怪訝そうな表情をして「え?なんで?」「なんで、って言われても、、、いっこうに慣れないのよ。むしろ前よりさらに下手になってる」「貼るだけじゃん。やり方違ってない?」「やり方はあってるはず。でもまっすぐ貼れない」「え、ちょっと待って。Yちゃんに教える用に、私動画撮ったんだよ。それ見せてあげるよ」Yちゃんは去年チェロに入った20代の女の子。「あの子譜面が全くめちゃくちゃだったからさあ…あれ、どこかな…あ、あった」

美しく手際よく貼り合わせられていくその動画を眺めながら、ポイントを確認していきました。

1.2枚のページをきっちりテープで貼って見開きのペアを作る。このとき1,2ミリの隙間をあけて貼ること(これ、できてなかった)。そして、紙がずれないように必ず重しを使うこと(これもやってなかった)。

2.見開きは中表にしっかり折り、そのペアの裏面をのりで貼り合わせていく(のりだとブヨブヨってなるのがいやで、私は最近両面テープで貼ってました)「両面テープは絶対だめ!だって、失敗したら元に戻せないでしょ!」その通り。だからひどい仕上がりになるのだ。

ああそうか、そこさえきちんとクリアできればあんなひどい結果にはならないのか。私は深く反省し、すでに7割がた終わっていた製本を思い切ってすべてやり直すことにしました。コンビニで手差しコピー拡大122%(A4→B4)を20枚とってきて、深呼吸して開始です。

ひとつひとつを丁寧にやっていったら、思ったほど時間はかからなかったし、私にしては上出来(美しいとは言えないが今までの自分の譜面と比べれば別人)で、初めて製本作業を楽しいと思いました。

彼女のおかげで、少し成長できた気がします。ちなみにご本人は、「私こういう作業すごい好きでねー。転職するなら装丁家になりたいわ」と真顔で言っていました。性格がサバサバしていることと、作業が雑で不器用であることは関係ない、ということも教えられました。

写真は若かりし頃の共演場面。

https://www.facebook.com/mutsumi.amemiya


雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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