プラダを着た悪魔
雨宮睦美
この作品は原書で読んですごく面白くて、めったに見ない映画化バージョンも見に行きました。あれ、DVDで見たのかもしれない、そこは記憶が曖昧ですが、単純に楽しめる映画でした。
最近やたら頻繁にSNSのリールで流れてくるので、ついついまた見てしまいます。
主演のアン・ハサウェイが、設定上ダサくてイケてない新人編集者時代にも、美しすぎてスタイルもいいから、そんなにひどく見えないのです。いくらファッションピーポーが毒舌だとしても、こんな素材のいい新人が入ってきたら、むしろ磨きがいがある、と張り切るのではないかしら。そこのリアリティはどうなのか、ってことは少し気になるんだけど、本当に不細工でもっさりしたヒロインだったら、あんなにヒットしなかったのでしょう。仕事に慣れて、服が着こなせるようになってからの彼女はまさにゴージャスです。
で、今回改めて(断片的とはいえ)見ていて気づいたのは、「悪魔」編集長役のメリル・ストリープのすごさです。この方は言わずと知れた大女優で、どんな役でも自分のものにしてしまう演技力の持ち主ですが、どちらかというと「大地に根を張って生きてきた、生活感あふれるおばさん」的な、どっしりした役に向いているイメージでした。美しいけどちょっと癖のある顔立ちと、体型の安定感がそう思わせるところも大きいと思います。
しかし。この映画の中の彼女は、完璧にファッショニスタのミランダ。単にスタイリストが服を選んだっていうような付け焼刃ではなくて、おしゃれで有能で底意地の悪い「ファッション界の悪魔」になりきっていました。一番すごいと思ったのは、着飾ったシーンではなくて、終わりの方でアンドレアに自分の弱みを少しだけ見せる車中です。
必死で勝ち取ってきた人生なのに、どうしてこんな思いをしなくてはいけないの?私はいいけど、娘たちだけはなんとしてでも守りたいのよ!っていう(詳細忘れたけど)、人間らしさが顔を覗かせる場面。多分ノーメイクなんですよ。でもそのノーメイクが、化粧なんかと無縁に生きてきたたくましい農家のおばさんのすっぴんではなくて、高級化粧品で手入れして、一分の隙もないメイクで武装してきた女性が、ふっと見せた素顔の弱さ、というノーメイクに見えるのです。なんて言ったらいいのかわからない、ものすごい説得力のあるすっぴん。
久しぶりに全編ちゃんと見直してみようかなあ。暑さでだらけきった精神に、喝を入れてもらえるかもしれない。