暁の寺



2023.03.03
雨宮睦美


三島由紀夫の最後の長編作品となった『豊饒の海』。若い頃夢中で読みました。私にとっては日本文学の最高峰。四部作からなっていて、第一部の『春の雪』はひたすら美しくもの哀しいのですが、主人公の青年が若くして死んでは生まれ変わっていく輪廻転生の物語で、どんどん壮絶な色合いに満ちていきます。
 
第三部『暁の寺』ではなぜか、彼はタイのお姫様に転生しています。そんな馬鹿な、と思うんだけど、男性を愛したこの作家は、いずれ多様性の世の中がやってくることも予感していたのでしょうか。
 
で、暁の寺です。ワット・アルン。バンコクには何度も訪れていたのに行ったことがありませんでした。あれは何年前だったのかな、それぞれに仕事や遊び、駐在などでバンコクにいた仲間と合流して食事をしたとき、「絶対見るべきだ、行ってこいよ」と同級生が地図を貸してくれ、翌日ひとりで挑戦してみることに。
なんか船に乗るんですよね、ほんとにここであってる?何度も地図や船を確認し、向かいに見えてるあれだよね、次で降りればいいんだな、っと思っていたのに、あれ?あれあれ?ワット・アルンを通りすぎていくんですけど?どこ行くんですかーもしもしー?アナウンスもなにもないしわけがわからないので、とりあえず次の船着き場で降りて、うろうろ歩き回って、暑くてフラフラしながら、さて私はあの日どうやってバンコク市内まで戻ったんだっけ。トゥクトゥクをつかまえたんだったかな。
 
異国で遭難しないでよかった。どうやら当時寺院は改修工事の真っ只中だったようですが、それで船が迂回したのかどうかまでは定かではありません。地図を貸してくれた友達に「たどり着けなかった」と報告したら仰天してました。
 
さて『豊饒の海』に話を戻すと、四部作を通じて転生を繰り返すため、常に若い美青年(時に美少女)であり続ける主人公に対して、友人の本多は着実に年を取っていきます。若く美しく散るのと、老醜を晒して永らえるのと、人生はどちらが幸福なのか、という対比は、おそらく作家自身の葛藤を投影したものでしょう。この作品を書き終えてまもなく、三島由紀夫は市ヶ谷で自死します。
 
あ、タイ料理の話もしようと思ってたのに長くなりすぎたので、それは次回に。
 
 

雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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