冒険少女



2023.03.06
雨宮睦美


小学生時代、基本的にはおとなしくて従順な子供だったと思うのですが、時々とんでもないことをしでかしていました。本を読むのが大好きで、物語の世界が現実の生活に浸食してくる。
 

たとえば「プチ家出」

 
ある晩何かで母に叱られて、口答えしたら「出ていきなさい!」そこだけ妙に素直な私は、出ていけと言われたから家を出なければならない、と思い、母が弟にピアノのお稽古をさせている間に、荷物も持たずそっと玄関を出ました。でも行く当てもないし、お金持ってないし、子供だし。とりあえず当時の社宅の庭にあった焼却炉(ブロック塀で囲まれている)の前で、座って星空を見上げながら、今後について考え始めました。
 
家出しちゃったなあ、ひとりぼっちでこれからどうしよう。こういうとき、本ではどうなるんだっけ。主人公がさまよっていると、親切な人が助けてくれて、でも悪いやつに追いかけられたりもするよね、まず駅に行くのがいいかしら…
 
妄想をふくらませていると、遠くで私を呼ぶ声がします。「むつみー!」「むっちゃーん!どこにいるのー?」「むっちゃーん!」なんと、母だけじゃなくて社宅のおばさんたちが私を探し回っている様子。これはまずい。大事(おおごと)になってしまう(もうなっている)。
 
一旦近づきかけた声がまた遠退いたところで、意を決して立ち上がり、そうっと家に戻ったのです。鍵は開いていたのかな。しばらくして帰ってきた母が私を見て驚いて「どこへ行ってたの?皆で心配したのよ」と言うから、「だって、出ていけって言われたから出ていったんだよ」と答えたところまでは覚えています。すごい近距離の家出でした。
 

たとえば「へびいちご事件」

 
これは、近所の雑木林で3つ年下の弟と遊んでいたとき。気分はすっかりヘンゼルとグレーテルなわけです。周りもいつの間にか鬱蒼とした森、という設定になっている。木の実かなんか拾ってたんだと思います。ふと目にとまったのが、地面にを這うようになっている小さくて真っ赤ないちご。直感的に「これは食べちゃいけないやつ」とわかっているのに、どうしても試してみたい。こわごわ口に入れると、なんとも甘くてみずみずしくて美味しいではないですか!弟にも「食べな、食べな」と勧めて、ふたりでかなりの量を食べたのでした。
 
辺りが暗くなり始めたので森での楽しい冒険を終えて家に帰り、私たち姉弟に異変が起きたのは夕食後です。ふたりして多分真っ青な顔で「気持ち悪い…」驚いた母に「外で何か食べてきたの?」と聞かれて、咄嗟に「晩御飯の豚汁が変だった」と言っちゃったもんだから母大激怒。「何言ってるの!ママはなんともないでしょう!何を食べたか言いなさい」「も、森で、いちごをひろって、食べた…」「えええええ?!」
 
でも不思議です。これを書くにあたって「へびいちご」を調べたところ、何を見ても「毒性はなく、人間が食べても害はないが、味もなく不味い」となっていたのです。そんなはずは!だって甘くて美味しくて夢中で食べたのに?そのあと嘔吐で大変だったのに?全部空想?夢?
 

雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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