即断即決
雨宮睦美
物事を決めるのは早いです。迷ったり悩んだりすることなく、大抵即決します。よく「男らしい」と言われます。言われてみれば女性のほうが、「どっちにしようかな」「うーん、迷うなあ。あなたはどう思う?」という感じで、時間をかけたり、人に相談したりしながら、じっくり決定に至るというイメージがありますね。「主人と相談してみてから」というのは、決断を求められた既婚女性の常套句ですし、奥さんや彼女のお買い物に付き合って、忍の一字でじっと待っているお父さん、お兄さんを見かけることも多いように思います。
この「決められない感じ」が、女性らしさや可愛らしさにつながっているのでしょうか。今となってはジェンダーの観点からこういう決めつけはよろしくないかもしれませんが。
飲食店で
平日のランチ時。席に着く頃には私は注文が決まっています。お水を持ってくる店員さんに、座りながら「Aランチ」とオーダー。同じような即決型の女性たちも「あ、A2つで」「私はBにします」など瞬時に決めるので、そこにたまたま悩む気質の人が混ざっていると、彼女は慌てます。「え?みんな早い、なんで、え、どうしよう、Aが何?ああ、そっか。どうしようかな、私もBかな、あ、ちょっと待って、やだどうしよう、えーとね、すみません、あ、Aランチお願いします」そして店員さんが去ると「ああ、やっぱりBも捨てがたかったなあ」とさらに苦悩が深まる様子。
「なぜそんなに注文を決めるのが早いのか」と質問されることがあります。「なぜって言われても…そんなこと気にせず、自分が食べたいものを頼めばいいじゃないの」などと答えながら、私はAランチが食べたくてAと言ってるかというと、実はそうでない気もしてくる。反射的に選択しているだけで深く考えてはいないし、間違ってBが出てきたとしても、気にせず食べると思います。どっちでもいいのかもしれない。
洋服店で
コロナ禍の前から、服はほとんどネットで買っています。たまーに店舗に行くと、直に服を見て触って確かめられるし、ほかにお客さんがいたり、店員さんと会話したり、そういうリアルな雰囲気はいいものだなと思う。けど買い方はやはり情緒なし。いくつか見せてもらったり、おすすめを持ってきてもらったりしたところで「これとこれは買います」「こっちはいりません」でおしまい。「お客様、お時間があれば、今日は空いていますし、ぜひご試着を」と食い下がられて、その熱意に負けて試着したら全然入らないやこれ。はいすみません私が間違っていました、1サイズ大きいのでお願いします、っていうこともあったけど、ほとんど試着はしません。店内滞在時間もかなり短いです。
PCの前で
これはもう、ほんとにすぐ決めます。自由に海外に行ってた頃は、突然閃いて日程と行き先を決めて、航空券を取って、ホテルサイトから一気に予約してたなあとなつかしく思い出します。もうあんな日々は帰ってこないよなあ。
オフィスを借りよう、と思い立った時も、夜中に検索して、あ、ここにしよう、内見希望、とクリックして、翌日見に行ってその場で決めました。「ほかの物件もご覧になりますか」「あ、いいです。ここ借ります!」で契約へ。
スマホがどんどん便利になってきたので、この傾向がますます加速するのではないかと少し自戒が必要ですね。
他の人には、なぜか慎重で計画的な人だと誤解されがちですが、どうやら私はかなり衝動的に動くタイプです。考える前に動き出してしまいます。実はバイオリンのレッスンで先生からその癖を指摘され、矯正しなければと思っています。弓を置く位置、長さの配分、次の音の準備、そういったことを全部度外視して、いきなり弾き始めてしまい、音を出してから「あ!」と慌てるのです。「睦美さんは、荷物を置いたまま出発してしまっている」…それですそれ。私の課題。楽器のことばかりではない。人生もだ!