絶対音感?
雨宮睦美
かつて音楽の英才教育を受けたことが二度あります。まずは4歳くらいの頃。東京で幼稚園に入って、途中で父の転勤で京都に引っ越し、京都ではいい園が探せなかったのか、私は幼稚園中退なんです。その代わりに、と母が見つけてきたスパルタ楽典教室みたいなところに通わされました。
暗い部屋で先生が和音をピアノで弾き、それが何と何と何の音なのか、ひたすら聞き取って五線紙のノートに書くレッスンでした。音を聴くこと(聴音)自体はそれほど苦ではなかったけれど、私以外は確か皆中高生くらいで、音高~音大受験のために通っていたのではないかと思います。そんなところに紛れ込んでしまって、子供ながらに孤独と疎外感を感じる経験でした。レッスンが終わると神経が昂って機嫌が悪くなっていたらしいです。
忘れられないのが、この時使っていたノートに、虫が挟まれていたことです。天井の蛍光灯から落ちてきて死んだのか、気づかずにノートを閉じた勢いで死んだのかわからないけど、書き込む音符は全音符だから輪郭以外白いのに、その虫の周りだけ黒く痕になっていたんですよね。新しいノート買ってもらえなかったのかしら。本当に可哀想な幼児の私。
次の厳しいレッスンは小6からでした。今度は数年過ごした大阪から東京に戻ってきて、ヤマハ音楽教室のジュニア科専門コース。隔週で2時間くらいのグループレッスンでした。ここでも聴音はあったし、新しい譜面を渡されて初見で弾くとか、先生がワンフレーズ弾いたあとに続きを即興で作って弾く練習とか、あるパターンのフレーズをどんどんアレンジしていって変奏曲にするとか…宿題では毎回知らない歌を出され、次回までにすべての調で、弾きながら歌えるようにしろと言われます。
ひとつ年下のユミちゃんていう子がとても優秀で、ユミちゃんに負けるなと発破かけられていやだった。レッスンの前に必ず頭痛がしてたのは、明らかにプレッシャーです。
まあこうしたトレーニングの甲斐があって、絶対音感なるものが身についたのですが、後年バイオリンを始めたら、あれ?私の絶対音感ってアバウトなんだけど?ということに気づいてしまいました。平均律に調律されたピアノの鍵盤で覚えているから、弦楽器のように音の高さが定まらないと、混乱するんですね。ピアノは「ド」を押せば「ド」が鳴るけど、バイオリンは弦を押さえる位置によって微妙に低い「ド」から微妙に高い「ド」までいくらでも幅がある。
先日の演奏会ではピッチを442ではなく443ヘルツでチューニングしたので「気持ち悪いかもしれないけど慣れて!」と言われましたが、そんな差はちっとも聴き分けられなかったのでした。