白い犬の銀行
雨宮睦美
ある時、年下の友人たちと食事をしていた時のこと。ひとりは5つ、もうひとりは10個くらい私より若いのですが、ある程度の年齢を過ぎれば、それほど年の差を気にすることもなく、いろんな話を楽しめます。これは年を取る良い点のひとつですよね。
全員が自分で会社をやっていることもあって、銀行の話題になったのです。どんどん都市銀行が店舗を減らしているとか、手数料が上がるらしいとか、ネットの対応が悪いとか、いろんな文句や愚痴を言い合う中で、ふと「三和銀行」の名前が出ました。今は三菱UFJになっているけど、で、思わず「ああ、三和ねー。ワンサくん」と口走ったら、ふたりはキョトン。「ワンサくん?」「ワンサくんって何?」
そうです、5年や10年の差なんて大人になれば関係ないけれど、子供時代のその差は大きいのでした。ふたりはワンサくんを知らない。
「ワンサくんは、白い犬なのよ。え?知らない?テレビでアニメやってたよ」必死でスマホで検索をかける私。「ほら、ほらほら、これがワンサくん。見たことない?」「知らない」「見たことない」・・・少なからずショックです。だけど、説明しようにもどんな話だったか、ワンサくんがどんな性格だったのか、全く覚えていません。「白い犬でしょ、ほらね・・・」「三和だからワンサなの?」「確かそういうことだったよ」「えー三和のキャラクターはスヌーピーだったよ」「・・・」それは逆に私が覚えていない。そうこうするうちに合併、合併、合併の渦に飲み込まれて、三和の名前は消えていったんですね。
『ワンサくん』を改めて調べてみると、原作者はなんとあの手塚治虫氏でした。しかも、漫画の連載開始に先駆けて銀行とのマスコット契約が1971年にスタートしたのだそうです。漫画はしかも連載誌が廃刊のため未完だとか。アニメ化は1973年らしい。そりゃ彼女たちが知らないわけです。
白い犬がキャラクターだった銀行の記憶は、そのうち「それソフトバンクでしょ?銀行じゃないよね」なんていうことになっていくのかな。