洋書は辞書なしで。
雨宮睦美
大学1年のとき、必修講義のひとつに「英語購読」というのがありました。周りの反対を押し切って日本文学科に進学したものの、やりたかった現代日本文学の研究など教えてくれる先生はいなくて、古事記や万葉集、漢文に変体仮名、新しくて平安文学、最新の作家が夏目漱石と森鴎外、っていう事実に愕然としていたときです。
英文科は英文科で、ワーズワースだシェイクスピアだ、と古典を学ぶところから始まって、どっちにしても現在進行形の文学を読んで研究することはないのだと知りました。だったら「日文科だけど、英語できます」とアピールできたほうが将来いいよな、なんて思った(これは本当にその通りで、就職活動のバブル時でさえ、英文じゃないなら受験資格もないという企業がいくつもあったんです)。
で、この「英語購読」はものすごいスパルタで、アメリカの小説をどんどん原書で読ませる先生だったのです。常に課題図書があって、毎週それに即したクイズ(小テスト)が出ます。内容は、「この時なぜ少年はこのような行動に出たのか?」とか、「主人公がこういう性格になったのは何に起因すると思うか?」とか、読んでないと答えられない問題だったし、まさに私がやりたかったのは(日本語でだけど)こういうことだ!と張り切りました。夏休みなど長い休暇の前にはまとめて数冊のペーパーバックが宿題になり、確か休み明けにはレポート書いたりしたような記憶もあります。
私は大喜びだったんだけど厳しいので学生受けは当然悪く、しかも金曜の1限@厚木キャンパスだったから、受講生はどんどん脱落していって、最後の方は数人になっていました。でも、ちゃんと読んでいけばちゃんと評価してくれるし、英語って面白いんだなと目覚めさせてくれたのはこの授業でした。先生のお名前も思い出せないけど、感謝しています。
分厚いペーパーバックを読むなんて最初は無理だ、としり込みしていましたが、敢えてストーリーが激しく動くものを選んでくださって、わかりやすいものから入る、ということをまず教えてもらいました。ミステリとSFと、西部劇と、あと一つなんだったっけ?確かにこれはその通りで、揺れ動く心理描写が続いて特別な事件が何も起こらない、みたいな小説だと初心者にはつらいんですね。挫折しがちだと思います。
あと、もう一つのポイントが、「単語や意味がわからなくても、途中では絶対に辞書を引かない」こと。意外ですがこれ大事です。わからなくてもわからないまま、とにかく読み進むのです。そうすると、途中で文脈から、あれ?これってこうういうこと?とわかることがある。どうしてもわからなければ、読み終わってから調べればいいのです。
この例として最も印象的だったのは、ravenでした。スティーブン・キングを読んでたときです。頻発するんだけど、この言葉知らない。なんかいい意味ではなさそうだ。生き物っぽい。なんだろう。。。
結局はっきりわからないけどなんとなく、カラスかな、でもカラスってcrowだよな、なんて思いながら読み終わって、あとで辞書を引いて、ravenもカラスなのだと知りました。
その後しばらくたってから、国際線の飛行機で隣り合わせた欧米人の男性と会話していて、お互いキングが好きだという話になって、あれ読んだ?ではあれは?なんていう中で、私が、「あれすごかった、なんだっけ、The Stand! 象徴的に出てくるのが…」「Raven!」って、ふたりで同時に口にしたのです。一生忘れないよねこの単語。この人とは何のご縁もなかったけどね。
この体験で私はすっかりペーパーバック読書にのめり込み、海外に行けば空港の売店でお手軽サスペンスなど買いこんで、東京にいる時も、洋書が充実している本屋さんを求めて、丸善や有隣堂などへ通ったものでした。
そうしているうちにだんだん好きな作家も出てきてますます楽しくなるんです。
その後はkindleに衝撃を受けてすぐ端末を購入。今ではタブレットやスマホでもダウンロードできるため、逆にありがたみが薄れて、買うだけ買って読んでないようなものも増えてきてしまいました。音楽も同じだけど、昭和生まれにとってはやっぱり、データではなくて、リアルな本の手触りが大事。
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