ハイブランド・アレルギー



2023.05.06
雨宮睦美


私立中学に入るまで、私はいわゆる「ブランドもの」の存在を知りませんでした。両親とも全くそういうことには疎かったし、特に興味もなかったようです。

校則がそれほど厳しくない学校だったので、皆のお財布やポーチはヴィトンのモノグラムだったり、足元は当時すごく流行っていたナイロンのNikeだったりしていました。靴下にもなんだか洒落た刺繡が入ってるし(今思えばラルフローレン)、部活のポロシャツにはワンポイントなんかついてるし(フィラだのタッキー二だのエレッセだの)、うらやましいとかほしいとかいう以前に、これは一体何なのだ?っていうのが正直なところで、どうしていいのかわからなかった。

ある時クラスメートの家に招かれて、そこではゴミ箱もヴィトン(モノグラム)だった、というあたりで、私の混乱もピークを迎えます。正直に言って、LV、LV!と主張するのって恥ずかしいなあと思ったし、素敵なマークだとは思えなかったけど、自分以外の誰もがたくさん持っていて、持っていない誰もがあこがれている存在に見えたんです。実際にはそれほどのことではなかったのかもしれませんが、12歳の子供には衝撃が大きすぎたんだな。

そのあと少しずつ大人になっていく過程で、シンプルに「いいものはいいよね」って言えるように育てばよかったんですが、どうやらひねくれてしまって、不自然にブランドを避ける行動を取るようになります。

でも周りの人たちがブランド慣れしていた高校→大学生活を経て、就職した会社もバブル期の広告代理店だったので、避けても逃げてもハイブランドだらけなんです。だから余計「私は、いらない!」と意地になったりした。プラダはちょっと素敵だな、と思っても、ロゴが表にあると買いたくなくなったし、香港でデザインが気に入って買ってウキウキしてたノーブランドの腕時計が、カルティエのあからさまなコピーだったと知った時はすごくがっかりしました。

エルメスのケリーやバーキンがやれ100万するだの何年待ちだの、という時代もありましたね。持っていた友達も少なくなかったから、「どこがいいんだろう」なんていうことは言わないように気をつけていましたが、結局必要以上に意識して挙動不審になっているんだから、興味はあったということなのかもしれません。

仕事でハイブランドがお得意先になるようなこともあったし、まあいい年齢になって、バッグや小物が安物ばかりっていうのはどうなんだろう、と思い、無理して手帳をエルメスで買ってみたこともあります。これは、経済的に続かなかった。レフィルの値段で気の利いた普通の手帳が10冊買えるわ、と思ったらどうしても気持ちがくじけました。

シャネルは見てすぐそれとわかるデザインのものばかりだったから見向きもしなかったのですが、ある時出たダイバーズウォッチの広告に一目ぼれしてしまい、思い切って購入。発売が2000年で、多分その翌年くらい、会社を辞めて、起業した頃ですかね。なんで私がシャネル?なんで私がダイバーズウォッチ?って、二重の意味で似合わないよなあと思いながらショップへ行きました。200メートル防水って、そんなに私が潜れませんから。

最初は革ベルトだったのがすぐへたってしまい、それをセラミックに変えてからは、数年に一度の電池交換とオーバーホール。20年たった今も愛用しているので、いい買い物だったのでしょう。

ところでいまだにヴィトンのショップだけは、どうしても入れないんです。別に用がないからいいんだけど、こういうのをトラウマっていうのかしらね。

https://www.facebook.com/mutsumi.amemiya/

 

 

 

 

 


雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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