222(にゃーにゃーにゃー)!
雨宮睦美
猫の日、終わってしまいましたが。
長女緒希(おき)ちゃん=初めての子猫
今から23年半前、自宅の物置でみゃーみゃー鳴いていた子猫を拾いました。私が猫に触れたのはそれが生まれて初めてで、目も開いてない、毛も生えそろっていないピンク色のその小動物が、本当に猫なのかどうかも疑わしいし、一体どうやって育てたらいいのか見当もつきませんでした。その晩はベッドの下に箱を置いてその中に入れ、2時間ごとに起きてミルクやり。あとは書物や猫好きな友人からいろいろ教わって、どうにかこうにか母猫代わりをこなしました。物置にいたから、名前はモノちゃんかオキちゃん。緒希という漢字を当てたらそれっぽくなったので、オキに決めました。
緒希は日に日に美猫に育ち、「可愛いね」と言われることで次第に態度が大きくなって、お客さんが来ると関心を引くためにグランドピアノに駆け上り、お腹を見せてキメ顔をするようになりました。それでまた「すごーい」なんて言われるものだから、どんどん調子に乗ってスター気取り。人間だったらイヤな女子だろうね、あなたは猫でよかった、でもそのスター性、私にも少し分けてね、といつも頼んでいたんですが、結局私は体得できずじまい。
19歳目前まで生きましたが、晩年はあごに腫瘍ができて、容貌が変わってしまいました。そして食欲が炸裂し、餌をやってもやっても「ちょうだい」と催促にくるようになり、醜くなった姿ですさまじく食べるのが怖い、でもちょっと笑えるのよね。さんざん食べて食べつくしたあと、今度は突然「はい、もう結構です。水もいりません。さようなら」と言って(多分本当に言っていたと思う)、嵐の夜、雷と共に去っていきました。ドラマティックすぎるよ、おきちゃん。
控えめな次女、茶緒(ちゃお)さん
緒希が1歳になる頃、自分を人間だと思い込んでいるようだったので、これは猫のきょうだいを作ってあげたほうがよいだろう、と、保護猫あっせんをしているところにお願いして、茶トラの子猫を引き取りました。うちに来たときは生後2か月くらい。
緒希の妹だから名前は一文字取って茶緒。この子は見た目はひっそりしていて性格もシャイで、うちの子の中では最も猫らしく人見知りするタイプでしたが、実は図々しいところもあって、あっという間に我が家の環境に慣れ、我が物顔で動き回るようになり、緒希の寝床やおもちゃも横取りするちゃっかりさんでした。私が練習しようとしてバイオリンケースを開けると、いつも顔をゆがめて「ケケケケケ」と鳴きました。うれしいのか苦しいのか最後までわかりませんでした。
そして茶緒にはいろいろな呼び名があって、「ちゃーさん」「ちえこ」「ちやこ」「ちえさん」などと呼んでいました。緒希が女優だとしたら、茶緒はなんとなくお手伝いさんの風情を持った子。その後やってきた弟たちに寄り添ったり、人間がせきこんだりすると心配そうに駆け寄ってきたり、派手さはないけどいいやつ茶緒さんは、20歳過ぎまで生きて静かに空に帰りました。
何かが足りない長男、音緒(ねお)くん
茶緒のあと数年たって、私はまた物置で子猫を拾います。この時は親猫とお兄ちゃん猫も一緒にいて、私は最初、お兄ちゃんのほうに手を差し伸べようとしたら、猛烈に「シャー」と言って逃げられました。奥にいた母猫が、「代わりにこっちをあげるから」と差し出してきたのが、のちの音緒です。ぐにゃんと倒れ込んできて、私が抱えようとしても何の抵抗もしないし、弱っていて死んじゃうのかも、と思いつつ獣医に連れて行ったらケロッと元気になり、すくすく育ってくれました。同じ物置生まれだし、顔立ちも少し似ているから、緒希とは血縁があった可能性があります。どことなく目の焦点が合っていなくて、行動が唐突だったりして、母猫が本能的に「この子はとても野生では生きていけない」と思って私に託したのかもしれません。
顔にプリンをこぼされても、背中にお茶をかけられても、気がつかずそのまま。掃除機を耳元でかけても微動だにせず眠っている、という猫らしからぬところがあります。
抱っこされるのが大好きで、今も毎日「母ちゃん、抱っこ」とせがみに来るし、私の友人が遊びに来ると「新しい母ちゃんだね!」といそいそと膝に乗って甘えます。6年前に検査したとき、「腎不全で一刻を争う状態」と言われてびっくりしてセカンドオピニオンで別な獣医に連れて行ったら、そこの先生が笑いながら、「太っているのがいいことだとは言いませんが、腎不全の子は、こんなに太れませんよ」と言ってくれたので救われました。19歳の今も唯一我が家に残っています。
猫社会になじめなかった次男、羽緒(はお)くん
音緒を拾ってから、物置にあった穴をアクリル板でふさいでしまったので、もう猫は拾えない、と思っていたら翌年、塀から落ちてきて泣きわめいている子がいました。羽緒と名付けたのに、どんどん大きく丸く育って、狸のようになっていきます。音緒とは違って利発な賢い子で、羽緒が目を真ん丸に見開いてこちらを見るととても可愛く、人間界では結構人気者だったのですが、先住の3匹にはあまり受け入れてもらえず、いつも独りぼっちでいることが多い子でした。
2011年の大地震のとき、いなくなってしまって、半泣きで探し回ったことを覚えています。チラシを作って近隣に配って歩きました。「ずっとおうちにいた子なら、そんなに遠くまで行くことはありません。きっとすぐ近くにいるはずですよ」と言ってくれたのが、後に音緒を腎不全疑惑から救ってくれた獣医さんです。家の中はもう全部見たし、何度見てもこんなところにいるはずは、と押入れを開けた時、暗闇に丸く光るものが2つ。え?え?ここにいたの?昨日もじっとここで恐怖に耐えていたの?驚かさないようにそーっと近寄って抱っこして、喉をごろごろ鳴らす音を聞いた時には心底ほっとしました。
太っているのが可愛かったのだけど、肥満はやはり万病の元です。糖尿病になってしまって、インスリン注射を朝晩私が家で打つ、かわいそうな晩年でした。一番若かったのに、13歳で一番先に虹の橋を渡ってしまいました。