割れ物恐怖症



2023.02.28
雨宮睦美


引きずり込まれる恐怖

 
高いところが怖いのは、落ちてしまうのではないか、むしろ自ら飛び降りてしまうのではないか、という恐ろしさのような気がします。私の場合、陶器や磁器、ガラス製品が並んでいる場所にいても、同じような感覚に陥ります。この繊細な美しい品々に向かって、ダイブしちゃうかもしれないという恐怖。
 
大学の卒業旅行の頃。周りの友人たちが欧州ブランドの陶器や磁器に興味津々で、絶対このお店が見たい、とか工房に寄りたい、とか語っているのを聞いたとき、いかに自分がこのジャンルに無関心なのかを自覚しました。有名ブランドの名前もほとんど知らなかったし、それぞれの特徴もまるでわからない。女子はどうやら一般に食器が好きなものなのだ、という事実は衝撃でした。
 
スーツケースの中で割れたら?ということも心配だったし、それ以前にずらっと割れ物が陳列された店内を歩く自信がなかったので、誰かが嬉々として買い物している間、大抵外で待っていました。妻の買い物に付き合う、手持ち無沙汰なおっさんのような気持ちで。
 
 

努力で克服できるのか

 
器に根っから関心がなかったのか、破壊しそうで怖いから近寄れなかったのか、自分でもよくわかりません。だけど広告代理店に入社して、ウェッジウッドもバカラも知りませんではまずいな、と思い、私は秘かに自主トレに励みました。
デパートに行ったらわざわざ食器売場のフロアに立ち寄って、用もないのにグルグル歩いてみるとか、誰かのお祝いに敢えて食器を贈ると決めて品定めするとか。結構努力したなあ。
 
今のところ、売場の商品の上に飛び込んで破損したり、怪我したりはせずに済んでいますが、じゃあ恐怖症が克服できたかというと、できてない。
 
それでも、いろいろ見ているうちに知識が多少ついて、好みもわかってきたのは面白いなと思っています。ハンガリーのヘレンドが好きですね。こんなことを言えるようになった自分が少し誇らしい(笑)。
 

雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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