道を聞かないで①



2023.03.07
雨宮睦美


生まれつき方向音痴です。残念ながら母からの遺伝で、昔学校に提出する書類の「家から学校までの地図を描いてください」というのには、親子で苦労しました。父は逆に「知らない土地に行っても感覚でどこにいるかわかるから、道に迷ったことはほぼない」という人でしたが、私が小学生の頃はほとんど海外単身赴任だったので、地図が描ける人が家にいなかったんですね。どうやって提出してたんだろう。。。

 

学校にたどり着けない

方向音痴関連でこれまでで一番のトピックスは「道に迷って中学の始業式に間に合わなかった」です。何しろかなりわかりやすい場所にある学校なので(青山学院中等部。現在のものですが地図を貼ります)、その後何年も何十年も語り継がれるぐらい、周りを驚かせました。

入学式は、母と一緒に地下鉄表参道駅から歩きました。大学の正門から入って敷地内の中等部に行ったのです。ところがその日生徒手帳を渡されて、読んでみると校則の中に「通学時は渋谷駅から歩くように」と書いてある。確か入学式の翌日が始業式。ひとりで行かなくちゃいけないのに道順がわからない。当時は一時帰国だか東京勤務だったかで父が家にいたので、「渋谷からどうやって学校まで行けばいいの?」と聞きました。父の答えは「ああ、それは、駅を出たらまっすぐ行けばいいんだよ、簡単だよ」で終わり。え?でもどの出口から出るかで、まっすぐの方向は変わるよね?どういうこと?地図が頭に入ってない12歳の私はプチパニック。青山通りをまっすぐ行けば大学正門、六本木通りをまっすぐ行けば中等部正門、と今ならわかるけど。

というわけで、地下鉄からハチ公あたりに出てきたかわいそうな私は、たぶんこっちがまっすぐだろう、と信じて歩いていきました。どんなに歩いても同級生と思われる人を見かけません。学校がありそうな気配もありません。でもまっすぐだもんね、まっすぐ、まっすぐ。なんだろう、高台に出てきた。見晴らしがよい。住宅街みたい。松濤って書いてある。なんて読むんだろう。学校はない。まっすぐ歩いてきたのに。もう間に合わないかもしれない。歩いているおばさんに聞いてみる。「すみません、あの、表参道の駅はどっちに行けばよいでしょうか」さすがに制服を着ていながら自分の学校どこですか、とは言えなかったんです。でも無情にも答えは「さあ・・・」ああ、これは無理だ。もと来た道を戻ろう。まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ。。。道玄坂を降りてきて電話ボックスに入った私は、家にかけて「まっすぐ行ったけど学校がないので、電車に乗って表参道から歩く。学校に連絡しておいて」と母に頼みました。

校則を破ってしまった、しかも始業式に遅刻してしまった。もう真っ暗な気持ちで登校すると、待ち構えていた事務の先生が大爆笑で迎えてくれました。講堂に案内されたら皆讃美歌を歌ってたのかな。式典の最中。

思春期の女子にとって、かなり最悪な新生活のスタートとはなりましたが、まあ私も図々しいのでしょう、特に不貞腐れることも心折れることもなく、すぐに渋谷からの道順も覚え、学校生活になじんでいきました。

 

決死の地図読み訓練

このエピソードは笑い話で済みますが、大人になっても方角はよくわからず、仕事でひとり出張するなんてことが増えてくると、もう死活問題になります。国内はまだしも、海外ひとりは、ほんと命がけ。何時間も地図を読んで、事前に予習しました。ホテルに戻れなかったりしたら大変ですから。ある時は真冬のシカゴで道に迷いかけて、寒いし、日は暮れてくるし、なんだこのうら寂しい路地は!変な人が来たらどうしよう、銃とか持ってないよね、ああ、でもここで地図を広げてたらおのぼりさん確定だし、スキを見せてはいけない。確かこの先をこっちに曲がると大通りに出るはず・・・あった!百貨店があった!やった!扉を開けるとあったかい店内でフレンドリーなお兄さんに「ハーイ、今日は寒いね、調子はどう?」なんて笑いかけられて、安堵のあまり泣くかと思いました。

知らない土地の地図を読むのって、新しい曲の譜面を読む作業に少し似ているかもしれません。全体像を把握しつつ、今行くべき進路をたどる。こことここがこうつながる、道がここで分岐してこっちで合流する、あ、なるほどこういう構造になっているのか!と。不思議なもので、こういう訓練を重ねることによってある程度は方向音痴はマシになります。

さらに今はネットとかGoogle先生とか、お助けツールもいろいろ出てきているから、遭難の恐怖はだいぶん薄れてきました。それでも油断するとやってしまうんですよね。特に渋谷は鬼門。通いなれた場所なはずなのに、時々魔界に迷い込む。長くなったので続きは次回。

https://www.facebook.com/mutsumi.amemiya/


雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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