寄席の世界



2023.03.17
雨宮睦美


未知との遭遇

このところ続けて寄席を見に行く機会がありました。これまでに、有名どころの独演会とか二人会、のようなものは経験がありましたが、演芸場で寄席というのは未知の世界。前回が新宿末廣亭、今回は上野の鈴本演芸場。クラシックのコンサートならさしずめ、サントリーホールか東京文化会館か、という感じでしょうか。

演目には落語だけじゃなくて、途中に漫才や漫談、手品や切り絵などもあって、ああ、いろんな大衆芸能を披露する場だから「寄席」というのか。

何の予備知識を持たない私のような客でも、楽しむポイントはいくつもあって、なかなか面白いです。

まず、舞台に現れた瞬間に、空気を変えてしまう人がいる。俗にいうオーラというんでしょうか。引き込む力を持っているかいないかは、話し始める前に決まっているように思います。

そして礼をして顔を上げ、第一声。ここで初めて存在感を放つタイプの演者さんもいます。それまでは意識的に存在感を殺して現れて、話し出したところで掴みにくる。

間合いや話の運びの上手下手は、シロウトの私が聞いてもわかってしまうんですね。それは何も芸歴や経験とは比例していなくて、大ベテランの年齢でも今一つの方がいれば、若手っぽいけどこれはすごい、と感じさせる人もいます。

見たこともない長屋の光景がちゃんと浮かんできて、そこに暮らす人たちの雰囲気が伝わってきたり、前にも聞いた噺だけど、細部が違ってるなあなんてディテールが楽しめるのもいいです。

古典はどこまでアレンジしたり創作を加えていいんだろう。コンチェルトのカデンツァ(独演奏者の即興的な演奏。とはいえ、現在はいくつかあるパターンから選んで、譜面通りにわりと忠実に演奏されます)に近いのかなあ。そもそも落語などの伝統芸能は、いわゆる再現芸術であるという点でもクラシック音楽に通じるけど、それに飽き足りない一流演者たちが、自らオリジナル作品を作ったり、異ジャンルとコラボしたりしているという共通点もありますね。

舞台裏に思いをはせる

あと、これはもう私の職業病なんですけど、この人ここの寄席に出ていないときは何をしているんだろう、どんな生活をしているんだろう、っていうことが気になってしまいます。音楽家だったらそれこそ「教える」仕事についたりしますが、徒弟制度も厳しそうなこういう世界ではバイトしてもいいのか?一般人向けの「落語教室(見るんじゃなくて話すほう)なんかあるのだろうか?今や師匠が弟子の生活の面倒を見るなんてことのほうが稀なのかな、ある程度の年齢までに真打ちになれなかった噺家はどうなるのかな、などなど。

手品とか漫談になるとこの疑問はますます深まります。ギター漫談していたおじいさん、面白かったけどあとで調べたら87歳だって。すごい。生涯一漫談師。ギター漫談やってるのは日本に2人しかいないんだよって。ということは世界中で2人なんだよって。後継者育てなくて大丈夫なのでしょうか。ちなみに、日本の「ヨナ抜き音階」とか、アラビックの音階とか、長調と単調の違いなど実演してくれて、ちょっとした高尚な音楽の授業のようでもありました。

もう少し通ったらもっと楽しくなるかしら。次は浅草にも行ってみたいなと思います。

https://www.facebook.com/mutsumi.amemiya/


雨宮睦美

マーケティングプランナー、モデレーター(インタビュアー)。 東京都出身。 1988年青山学院大学文学部卒業後、博報堂に入社しました。 国際業務局(4年間)、マーケティング局(8年間)の勤務を経て2000年に退職。 2001年に有限会社オルテンシアを設立し、前職の流れでマーケティング業務を請け負ってきました。食品、飲料、化粧品、自動車、通信機器等、様々なジャンルの企業のお仕事に携わっています。中でもインタビュー調査を得意とし、企業トップや大学教授、ジャーナリストや編集者等の有識者取材を始め、一般消費者へのグループインタビューやデプスインタビューなどで、これまでに話を聞いた人の数は、のべ数千人を超えます。


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