社交辞令を真に受けて
雨宮睦美
ラジオでいろいろ質問していただいたことをきっかけに、忘れていた昔の出来事などもふっとよみがえってきたりしました。その中に、我ながら「ああ若気の至り・・・」と恥ずかしくなる失敗があったので、ラジオでは話さなかった分、こちらに書いてみます。
まだ入社して1-2年目の頃だったと思います。当時私は国際業務局というセクションにいて、海外(主にヨーロッパ)からのお客様が来るたびに、末端の接待要員として、今日はしゃぶしゃぶ、明日は天ぷら、と、お・も・て・な・しに駆り出されていました。おかげで高級和食をいただいたり、酒席での英会話を学べたりできて、ありがたいことでもあったけれど、まあ気が利かない私のことですから、「●●さんのグラスが空だろう!」というお叱りもしょっちゅう。そして、ヨーロッパ人にも好色なおっさんは当然います。すぐ触ろうとするおじさんを避けながら、でも怒らせてはいけないのでへらへら笑ったりして、非常に面倒くさかった。
ビール瓶を持って、皆さんのグラスに注いで回っていると、「こんなことは君の本来の仕事ではない。女性がお酌なんてやる必要はないんだよ」と言ってくれる紳士もいました。
さてさて問題のできごとの発端は、そんな接待でした。いつもと違うのは、日曜日に1日がかりでアテンドしたことです。相手は某大手広告会社の創設者のひとり。他のメンバーは朝からゴルフコースへ行くのだけれど、その人だけはゴルフをやらないものだから、お前が1日つきあえ、ということなんです。ハイヤーが朝うちに来て、そこからホテルにお迎えに行って、浜離宮を案内して、歌舞伎座で歌舞伎を鑑賞し、皆さんが待つ都内の料理店までお連れする。
なんの演目を見たのか、どんな役者が出てたのか、さっぱり覚えていませんが、翻訳付きのイヤホンを借りてあげて、パンフレットを読みながら俄か解説をした記憶はあります。
1日一緒に過ごして、その人から「今日はいろいろありがとう。君のおかげで楽しい経験になった。パリに来るときはいつでも知らせなさい」と言われた、それこそが社交辞令だったわけですが、私は完全に真に受けたのです。
その年あるいは翌年だったかな?友達とフランス旅行に行くことが決まり、「そうだ、パリなら知り合いのおじさんがいるわよ」と、軽い気持ちでそのおじさんに連絡を入れてしまいました。当時まだネットも携帯もない時代。ファクシミリを送ったのです。「ハーイ、お久しぶり!お元気だった?今度遊びでパリに行くことになったからぜひお会いしましょう」すると、受け取ったおじさん、「いったい誰なんだこれは?」とうちの会社に問い合わせを入れ、それを聞いた会社のお偉いさんたちもびっくりして大慌て。まあいろんな人から怒られました。「相手はめちゃめちゃ偉い人なんだぞ。わかってんのか!」「君がすごい重要人物なのかと思われているじゃないか!」「あのねえ、雲の上の人みたいな人に軽々しく連絡しちゃダメだよ!」などなど。
私は各所に丁重に謝ったのですが、内心では「こっちだって歌舞伎につきあってアテンドしたんだし、パリに来るときは知らせろって言ってたもん」と思って、実は反省していませんでした。
そしてパリ。オフィスを訪問し、しばし待たされたあと、おじさんが登場しましたが、なぜか1時間くらいかけて、最新のフランスの広告事情についてプレゼンされて終了。お昼時だったけれど、確かエヴィアンのボトルを1本ずつくれただけだったかなあ(笑)。一番とばっちりだったのは、同行の友人だったと思います。あの時はごめん!